カンボジアのGPEについてJICA教育政策アドバイザーの松田さんに伺いました

インタビューに答える松田さん

既にお伝えしていますが、JICA含む外部の資金調達によりカンボジアでGPEのマルチプライヤーが承認されました。その立役者として現地で業務に当たっていたJICA教育政策アドバイザーの松田徳子さんにインタビューさせて頂きました。
GPEマルチプライヤー承認によってどのような変化が出たのか、日頃、同国の教育政策の立案支援するにあたり感じたことなどを伺いました。
外務省教育ODA担当官(任期付職員)として、GPEの前身である当時のFTIを推進していた経験も、現在の業務にいきているそうです。

マルチプライヤーのメリットと承認までの苦労
マルチプライヤーのメリットは、大きく2つあると教えてくれました。
①JICAのプレゼンスが高まったこと
最近、教育省・ドナー会合においてGPEが取り上げられることも多いですが、その際、教育大臣や長官は、JICAのマルチプライヤーへの貢献についても言及されるとのこと。カンボジア教育セクターでは、もともとJICAのプレゼンスは高く、特に教師教育ではリードドナーとされているが、さらにプレゼンスが高まったと感じるそうです。

②JICAがリードしてきた教員養成課程学士がメインストリームされたこと
カンボジアにおけるGPEコンパクトの策定過程にJICAが参画したことで、これまでJICAが旗振り役を務めてきた教員養成改革が、実は教育セクター全体の改革のカギであるという認識が共有されたそう。GPEについては、マルチプライヤーだけではなく、STGやSCGにおいても、教師教育をメインストリームしていこうという機運が高まっており、JICAへの相談も多いとのこと。

戸惑ったこと
GPEについて松田さんが最初に戸惑ったことは、GPE全体の仕組みはもとより、そのメリットとリスクが分かりにくかったことだそうです。例えば「コファイナンス」など特殊な専門用語が多く飛び交っていたためとのことですが、ユニセフ(現地GPE調整機関)、GPE事務局などで活躍している日本人職員と非公式なやりとりを重ねることで、GPEのスキームへの理解を深めていったと語っていました。 また実際にJICAが、GPEマルチプライヤーのコファイナンサーとして名乗り出るにあたっては、JICA職員のみなさまの粘り強い内部調整があったことを強調していました。組織内のチームワーク、他機関とのパートナーシップ、そして組織を超えた日本人間の交流の積み重ねがカギだったようです。

4年制教員養成大学の学生の熱意
昨年8月に4年制課程の卒業生が初めて誕生。今年1月から各地で教鞭をとり始めました。
教員養成大学の学生はほとんどが地方出身の学生だそう。朝7時から夕方まで授業を受けた後、クラブ活動をしたり、英語を学んだり、パソコンをしたり。多くの学生たちが、都会で過ごす4年間を満喫して自己研鑽に励んでいたことが印象的だったと松田さんは話していました。

プノンペンの教員養成大学の看板
(第1期生寄贈)

また、教員養成大学の学生たちのコミットメントも素晴らしく、例えば学生の多くは経済的に厳しい生活を送っている中で、卒業時にはお金を出し合って教員養成大学に看板を寄贈したり、コロナ禍で学校閉鎖が続いた時にも、ボランティアで村に出向いて低学年の児童に勉強を教えたりなど、真摯な姿に胸を打たれたと松田さんは語っていました。

バッタンバンの教員養成大学の学生
(コロナ禍に村に出向いて学習支援)

カンボジアでのリサーチカルチャー
4年制養成大学になったことで変わったことの1つが授業研究をすることになった点だそう。カンボジアではリサーチカルチャーがとても弱いため、トピックの見つけ方やアクションリサーチのやり方など一連の流れを指導したそうです。学校の教育の質を上げるため、先生が一方的に話す授業ではなく、生徒たちが疑問をもったり自分で考えたり出来るような授業を自ら作っていかれる先生になれるよう、大掛かりなプロジェクトとして取り組んでいました。

松田さんが養成大学一期生の卒業生の授業を視察した時の様子も教えてもらいました。
小学2年生のクメール語の授業を見学したそうなのですが、様々なメニューを出して子どもたちが注意をそらさないように、ずっと授業に参加出来るようにしていたのが印象的だったとのこと。また、複雑な言語であるクメール語ですが、前回の授業で習っていたものをクラス全員が書けるようになっていたのを見て嬉しくなったそうです。

カンボジアの教育事情とJICAの教員養成大学支援
ポルポト政権下で教師などの知識層が虐殺されたカンボジアでは、1979年からゼロからの国づくりが進められました。急ごしらえの教育開発を迫られた政府は、短期の教員養成制度で対応してきましたが、JICAの支援を受けて、教員養成大学(TEC)2校を設立し、2018年より4年制の教員養成課程を試行してきました。
・教員養成大学建設計画(無償資金協力、2017~2021)
・教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト(2017~2022)

昨年8月にTEC第一期生が卒業。学士号を取得した卒業生たちが、今年1月から各地で教鞭をとり始めました。子どもたちの学びをいかに改善していくかがカンボジアの大きな課題です。

今後の松田さん
これまで多くの調査研究を通して、4年制の教員養成課程で学ぶ学生の比較優位性などを示すと共に、TECの全国展開のための戦略計画策定に向けた政策提言を行ってきたそうです。また今後は、他ドナーと協調しながら、TECの全国展開を支援していきたいと語っていました。

教育省、ドナー、研究者などに向けた
政策提言をする松田さん

松田徳子(まつだのりこ)さんプロフィール
2021年8月からJICA教育政策アドバイザーとしてカンボジア教育省に勤務中。専門は公共政策。これまでガーナ、ドミニカ共和国、ネパールなどにも赴任。日本国内では、外務省で教育ODA政策担当官、常葉大学教育学部非常勤講師なども歴任。マンチェスター大学大学院教育政策研究科修了。

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