ユニセフ・エチオピア事務所篭島真理子副代表インタビュー

マルチプライヤーが承認されたエチオピアのグラントエージェントはユニセフのエチオピア事務所です。
その副代表は日本人の篭島真理子さん。 篭島さんに、エチオピアの子どもたちが置かれている状況や、今年1月に鈴木憲和議員と鈴木貴子議員がエチオピアの視察に訪れて下さった時のエピソード、マルチプライヤーによってエチオピアの子どもたちにどんな支援が出来るようになるのかを伺いました。

インタビューに答える
ユニセフ・エチオピアの篭島真理子副代表

インタビューの前に、エチオピアの教育事情をお伝えします。
エチオピアの教育事情:学校へアクセス出来ない子が多数
エチオピアは人口約1億2000万のうち、約70%を25歳以下が占めている若者が多い国です。しかし約3000万人の子どもたちが学校(幼稚園~中学卒業まで)に行かれていません。
背景にあるのは、男児は労働力として仕事に従事し、女児は小さいころから水汲みなどの家事を任されていることや児童婚があります。特に児童婚が思春期の女子の教育に及ぼす影響が大きくなっています。

鈴木憲和議員、鈴木貴子議員のエチオピア視察
エチオピアの教育支援で印象に残ったエピソードを伺うと、今年1月に鈴木憲和議員と鈴木貴子議員が視察に訪れ、議員のお二人と一緒に、学校に来ている子どもたちとその親たちとゆっくり話す機会があったことだという篭島さん。子どもたちの置かれている状況を深く理解することが出来たからだそうです。その中から特に印象的だった会話を教えてくれました。

親たちの言葉
内戦を経験した父親の一人が、「僕らは自分たちを表現できる言葉がなかった。教育がなかったから武器を持って戦ったけれど、もし教育を受けていたら言葉で解決できたと思う」と話していたこと。また、母親の中で「私は字を書くことも読むことも出来ないけれども、教育が大切なことは分かる。なぜかというと、あなたたちは私たちの前に座って話をしているから。私たちは教育を受けていないから、そういう立場に絶対なれない。だから自分の子供たちには教育を受けさせて、そういう立場になれる人間になって欲しい。どんなことがあっても私は子どもたちに教育を受けさせる」という想いを語ってくれた人がいたそうです。
篭島さんは、親は期待を持って、自分たちの犠牲を払って子供に教育を受けさせている。その中で教育の質を上げないと学校に対する不信感や絶望感を抱いてしまいかねないと、ソフト面での支援の大切さも話していました。

支援する国の大変さ
また、議員の先生方との会話を通して、支援をする側の大変さも感じたといいます。
自分たちはいつも支援してもらう立場。議員の先生方は国民の理解を得ないと支援に充てるお金が得られない。日本にいる大変な思想いをしている人たちの理解を得た上で、パートナー国への援助をしてもらうことの難しさも学んだそうです。 ちなみに、議員の先生方と訪問した学校では、11歳で結婚し、離婚したのち学校に戻ってきた14歳の女の子にも出会ったとのこと。児童婚は身近にあることを感じた瞬間だったと振り返っていました。

トゥリグルド(ハジ・ヨニス)小学校の教室にて
(出典:UNICEF/GPE/Hiba Mohamed)

GPEマルチプライヤーで出来るようになること
GPEのマルチプライヤーを使って、まずは、紛争で約2250校ある学校のうち1987校が壊された 北部へ行き、JICAと共に建設や学校の修理をしていくそうです。また、ユニセフは同じ地域での教師教育や子どもたちのメンタルケアなどソフト面でも活動していく予定だとのこと。
北部のディグレイ州では、新型コロナの影響で学校が2年間閉鎖し、その後は内戦が勃発。国内避難民がシェルターとして、また軍が基地として多くの学校を使用しました。そんな中で子供たちは4年間も学校へ行けない状態にありました。今年5月に学校が再開されたものの、学校の破壊、教師の不足、そして地雷や不発弾の危険からすべての子供たちが学校に戻れている状況ではありません。その間に教師の人数も半分近くに減ってしまったとのこと。大変な状況に置かれている子どもたちが教育の場に帰って来られるように多方面から環境を整えていくそうです。

篭島真理子(かごしま まりこ)
ユニセフ・エチオピア事務所副代表。日本の大学卒業後教員に。ウォーリック大学国際比較教育修士号。1998年JPOとしてユニセフメキシコ事務所へ。その後Education Officerとしてユニセフ職員に。アフガニスタン、アンゴラ、ウガンダなどで勤務。2022年10月から現職。

カンボジアのGPEについてJICA教育政策アドバイザーの松田さんに伺いました

インタビューに答える松田さん

既にお伝えしていますが、JICA含む外部の資金調達によりカンボジアでGPEのマルチプライヤーが承認されました。その立役者として現地で業務に当たっていたJICA教育政策アドバイザーの松田徳子さんにインタビューさせて頂きました。
GPEマルチプライヤー承認によってどのような変化が出たのか、日頃、同国の教育政策の立案支援するにあたり感じたことなどを伺いました。
外務省教育ODA担当官(任期付職員)として、GPEの前身である当時のFTIを推進していた経験も、現在の業務にいきているそうです。

マルチプライヤーのメリットと承認までの苦労
マルチプライヤーのメリットは、大きく2つあると教えてくれました。
①JICAのプレゼンスが高まったこと
最近、教育省・ドナー会合においてGPEが取り上げられることも多いですが、その際、教育大臣や長官は、JICAのマルチプライヤーへの貢献についても言及されるとのこと。カンボジア教育セクターでは、もともとJICAのプレゼンスは高く、特に教師教育ではリードドナーとされているが、さらにプレゼンスが高まったと感じるそうです。

②JICAがリードしてきた教員養成課程学士がメインストリームされたこと
カンボジアにおけるGPEコンパクトの策定過程にJICAが参画したことで、これまでJICAが旗振り役を務めてきた教員養成改革が、実は教育セクター全体の改革のカギであるという認識が共有されたそう。GPEについては、マルチプライヤーだけではなく、STGやSCGにおいても、教師教育をメインストリームしていこうという機運が高まっており、JICAへの相談も多いとのこと。

戸惑ったこと
GPEについて松田さんが最初に戸惑ったことは、GPE全体の仕組みはもとより、そのメリットとリスクが分かりにくかったことだそうです。例えば「コファイナンス」など特殊な専門用語が多く飛び交っていたためとのことですが、ユニセフ(現地GPE調整機関)、GPE事務局などで活躍している日本人職員と非公式なやりとりを重ねることで、GPEのスキームへの理解を深めていったと語っていました。 また実際にJICAが、GPEマルチプライヤーのコファイナンサーとして名乗り出るにあたっては、JICA職員のみなさまの粘り強い内部調整があったことを強調していました。組織内のチームワーク、他機関とのパートナーシップ、そして組織を超えた日本人間の交流の積み重ねがカギだったようです。

4年制教員養成大学の学生の熱意
昨年8月に4年制課程の卒業生が初めて誕生。今年1月から各地で教鞭をとり始めました。
教員養成大学の学生はほとんどが地方出身の学生だそう。朝7時から夕方まで授業を受けた後、クラブ活動をしたり、英語を学んだり、パソコンをしたり。多くの学生たちが、都会で過ごす4年間を満喫して自己研鑽に励んでいたことが印象的だったと松田さんは話していました。

プノンペンの教員養成大学の看板
(第1期生寄贈)

また、教員養成大学の学生たちのコミットメントも素晴らしく、例えば学生の多くは経済的に厳しい生活を送っている中で、卒業時にはお金を出し合って教員養成大学に看板を寄贈したり、コロナ禍で学校閉鎖が続いた時にも、ボランティアで村に出向いて低学年の児童に勉強を教えたりなど、真摯な姿に胸を打たれたと松田さんは語っていました。

バッタンバンの教員養成大学の学生
(コロナ禍に村に出向いて学習支援)

カンボジアでのリサーチカルチャー
4年制養成大学になったことで変わったことの1つが授業研究をすることになった点だそう。カンボジアではリサーチカルチャーがとても弱いため、トピックの見つけ方やアクションリサーチのやり方など一連の流れを指導したそうです。学校の教育の質を上げるため、先生が一方的に話す授業ではなく、生徒たちが疑問をもったり自分で考えたり出来るような授業を自ら作っていかれる先生になれるよう、大掛かりなプロジェクトとして取り組んでいました。

松田さんが養成大学一期生の卒業生の授業を視察した時の様子も教えてもらいました。
小学2年生のクメール語の授業を見学したそうなのですが、様々なメニューを出して子どもたちが注意をそらさないように、ずっと授業に参加出来るようにしていたのが印象的だったとのこと。また、複雑な言語であるクメール語ですが、前回の授業で習っていたものをクラス全員が書けるようになっていたのを見て嬉しくなったそうです。

カンボジアの教育事情とJICAの教員養成大学支援
ポルポト政権下で教師などの知識層が虐殺されたカンボジアでは、1979年からゼロからの国づくりが進められました。急ごしらえの教育開発を迫られた政府は、短期の教員養成制度で対応してきましたが、JICAの支援を受けて、教員養成大学(TEC)2校を設立し、2018年より4年制の教員養成課程を試行してきました。
・教員養成大学建設計画(無償資金協力、2017~2021)
・教員養成大学設立のための基盤構築プロジェクト(2017~2022)

昨年8月にTEC第一期生が卒業。学士号を取得した卒業生たちが、今年1月から各地で教鞭をとり始めました。子どもたちの学びをいかに改善していくかがカンボジアの大きな課題です。

今後の松田さん
これまで多くの調査研究を通して、4年制の教員養成課程で学ぶ学生の比較優位性などを示すと共に、TECの全国展開のための戦略計画策定に向けた政策提言を行ってきたそうです。また今後は、他ドナーと協調しながら、TECの全国展開を支援していきたいと語っていました。

教育省、ドナー、研究者などに向けた
政策提言をする松田さん

松田徳子(まつだのりこ)さんプロフィール
2021年8月からJICA教育政策アドバイザーとしてカンボジア教育省に勤務中。専門は公共政策。これまでガーナ、ドミニカ共和国、ネパールなどにも赴任。日本国内では、外務省で教育ODA政策担当官、常葉大学教育学部非常勤講師なども歴任。マンチェスター大学大学院教育政策研究科修了。

GPE2022年度次報告書を発表

GPEが発足して以来、パートナー国では1億6,000万人以上の子どもたちが学校に通うことができるようになりました。これは、教育の力によって影響を受けた1億6,000万人の個人の生活です。2022年度の主な動きを紹介します。

・GPEは41カ国に対し、約3億USドルの新規助成金を承認しました。また、9カ国でマルチプライヤーグラントが承認され、総額1億5600万USドル、26のパートナーから7億8600万USドルを活用することができました。

・2022年6月に開催された「教育の変革」プレサミットでは、80のパートナー国の教育大臣が「教育の変革」に関する閣僚コミュニケに署名。2022年5月にもサブサハラ・アフリカの14人の教育大臣が「教育におけるジェンダー変革のためのリーダーシップに関するフリータウンマニフェスト」に署名しました。これらの大臣からの緊急の呼びかけを受け、GPEは2022年9月に開催された「教育変革サミット」において、世界のリーダーに対し、教育への資金拠出を緊急に増やすよう呼びかけました。

・新たにアンゴラ、エルサルバドル、エスワティニ、フィジー、グアテマラ、インドネシア、フィリピン、チュニジア、ウクライナの9カ国がGPEに加盟しました。

・GPE Knowledge and Innovation Exchange(KIX)とEducation Out Loud (EOL)は、それぞれ8000万USドル、6000万USドルを追加。レゴ財団、GPE、国際開発研究センターの間でKIX専用の窓口が設けられたことで、5つの新しい研究イニシアチブが生まれました。Education Out Loudはこれまでに、教育分野における市民社会の活動を支援するため、63カ国で70件の助成金を提供しています。

・ケニアで、政府および民間セクターのパートナーであるエコバンク財団、アバンティ・コミュニケーションズ、国際ロータリーとともに、女子教育啓発プログラムを開始しました。

JICAが共同出資として参加するカンボジアとエチオピアにおけるGPEのマルチプライヤーが承認されました!

エチオピアとカンボジアの教育省がそれぞれGPEの理事会に提出をしたマルチプライヤー事業が承認されました。今回は、カンボジアのマルチプライヤーについて取り上げます。

カンボジアの学校にて
出典: GPE/Roun Ry

カンボジアの教育省は、合計1億590万USドルの外部からの資金調達を達成し、それによってGPEのマルチプライヤーがカンボジアにとって上限である3000万USドルで承認されました。JICA(200万USドル)、EU(4390万USドル)、世界銀行(IDAのローン,6000万USドル)が共同出資者となり、共にカンボジア教育省の優先課題である教師の能力強化に取り組み、教育・学習状況の改善を支援します。このプログラムは、ユニセフと世界銀行がグラント・エージェントとなる予定で、来年度中にスタートする予定です。JICAが共同出資する分については、教師教育センターとその支援機構の能力を向上させることで、持続可能な教育・学習支援を行います。

カンボジアのマルチプライヤーについてCEOのコメント

GPEは、JICAがパプアニューギニア、ラオス、セネガルに続き、カンボジアでも新たに共同出資者となったことを喜ばしく思っています。これにより、カンボジアの重要な課題である教員能力強化において、JICAとGPE、その他の機関による支援のシナジーが期待されます。

GPEマルチプライヤー:教育への投資をより多く、より良くするためのインセンティブと財源を提供する革新的な資金調達手段のこと。他の外部資金源と同様に機能。助成金として投資したり、多国間開発銀行や二国間ドナーなどからの譲許的融資の金利を下げるために使用することが可能で、民間資本を含む他の非伝統的な開発資金源と併用することも出来ます。