市岡氏(在モンゴル日本国大使館)、豊田氏(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)へのインタビュー
モンゴルでは、在モンゴル日本国大使館がコーディンネーション・エージェンシー(CA)(現地教育グループを取りまとめ、教育セクターの政策対話の調整を通して、相手国政府を支援する役割)を担い、セーブ・ザ・チルドレン・オーストラリア(SCA)がグラント・エージェント(GA)(資金運用機関)となりまた、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)がその連携パートナーとなり、 GPEの資金調達プラットフォームを活用し、JICAの案件でシードマネ―を獲得することになった 、GPEグラント事業が承認されました。
日本の機関・団体が中心的役割を担う本グラントにおいて、在モンゴル日本国大使館の市岡氏と、 SCJの豊田氏にインタビューを行い、教育支援における援助協調の枠組みに日本が参加する理由や意義などについてお伺いしました。
現在の業務について教えてください
市岡晃氏 (在モンゴル日本国大使館 一等書記官 ):経済・開発協力班長として、モンゴルに進出する日本企業の支援やモンゴルから日本のマーケットに関心あるモンゴル企業の支援、日本政府の対モンゴル支援の政策立案・実施を担当。
豊田光明氏 (公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 海外事業部のアジア地域マネージャー ):モンゴルと東南アジア地域の支援戦略の策定、新規事業の案件形成、各国で実施中の事業の運営・管理等。2007年から12年間モンゴル事務所の代表。現在は東京ベースで、引き続きモンゴルの統括。
CAを担うことや、GAを目指すことになった経緯を教えてください
市岡晃氏 :モンゴルでは以前から教育における援助協調の枠組みが存在しており、在モンゴル日本大使館はADBと共同で議長を務めてきた。そのような中で、2018 年にモンゴルの教育科学省がGPEの資金活用に関心を示した際、教育分野の主要なドナーであり共同議長の経験があった日本にCA就任の打診があった。それを受けてLEGのメンバーに承認され在モンゴル日本大使館がCAとなった。
豊田光明氏 :セーブ・ザ・チルドレン(SC)は1994年にモンゴルに事務所を開設。それ以来モンゴルの教育セクター、特に就学前教育と基礎教育の分野で活発に支援活動を展開してきた。 モンゴルが、民主化の道を歩み始めた1990年代からその時代ごとのモンゴル特有の教育課題に対して、 SCは25年間にわたり支援を続けてきた。その実績が教育省にも認められ、現場で支援活動を担うだけでなく、教育政策アドバイザーとして、教育分野中期開発計画の策定にも関わってきた。今回モンゴル政府がGPEに対して、マルチプライヤーへの関心表明を出して申請を決めた際、基礎教育において、 SCがこれまでモンゴルで培ってきた専門的な強みを活かし、GPEの事業を運営する側に立って関与したいと考えるようになった 。しかしながら、モンゴル事務所を管轄するSCJとして、GPEのGAを行うために必要な資格を有していなかったので、 SCJの姉妹機関であり、すでにGA資格を保有しているSCAにGAとなってもらい、 SCJ は連携パートナーとして、LEGで選任された。
CAやGAを担う意義をどのように捉えていらっしゃるか教えてください
市岡晃氏 :日本はOECDのDACメンバー国の中で、モンゴルに対する支援のトップドナーであり続けている。日本政府は重要な外交課題の一つとして人間の安全保障を推進しているが、この実現のために途上国において教育分野における支援を積極的に行ってきており、モンゴルにおいても教育インフラの整備、国費留学制度や技術協力を通じた人材育成に力を入れてきた。他方、最近はモンゴルは経済成長に伴い、所得水準が高くなっているため、以前のように日本政府が無償資金協力を実施することが難しくなってきている。このような状況の中で、日本政府による対モンゴル支援はJICAやNGOを通じた技術協力が中心となっているが、大使館、JICA、日本のNGOが協力して、教育分野の支援事業を実施するだけでなく、モンゴルの教育科学省のために教育分野の国際的な枠組みであるGPEの資金の獲得を支援することは、開発と外交の両面において大きな意義がある。
これまでも、各援助機関同士が、個別に相談や意見交換をしたり、連携する取組みは行われてきたが、LEGのように、主要なドナーだけでなくNGOや教育関係者が集まって情報を共有する枠組みはなかった 。このような援助協調の枠組みを日本が主体的に取り組むケースは世界的に見ても少ないと思う。ここ数年は、コロナ禍でオンラインの会議ばかりで会合の運営が難しい面があったりなど労力も伴うが、現場において日本の存在感を示すことにつながっているのではないかと思う。
豊田光明氏 :SCJでは引き続き、モンゴルで支援活動を続けることを計画しており、中長期的な視点で見た場合、GAの資格を取得しておくことが望ましいと考えている。もしSCJとしてGAの資格が取得できると、 SCJが教育分野で支援活動を実施している他のアジア諸国だけでなく、中東やアフリカ諸国でもGAを執行・運用できる条件が整う。 GAとしてGPEのグラントをどこかの国で執行できるようになると、これまでと全く違った次元で、教育現場での活躍の場が広がる。例えば、GAとなることで、GPEのグラント事業を通じて当地の教育省との関係性が必然的に強化されることになり、教育政策に直接関与できる機会も増え、組織運営の面で財政的な恩恵も受けることになる 。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのような日本の国際協力に携わる組織にとっては、GAの資格取得は非常に魅力的である。
モンゴル教育省が重点分野として掲げている教育課題とGPEのグラント事業の関連を教えてください
豊田光明氏 :現在モンゴルで実施中の10年計画である教育分野中期開発計画がある。その中で、3つ重点課題が挙げられている。1つ目は教育システムの質・教育の妥当性の向上、2点目が教育の機会均等と包括性の向上、3点目が教育ガバナンス・管理・運営の効率化。この計画の中で誰一人取り残さない公正で質の高い教育や子ども達の健全な成長を支える教育環境の整備、デジタル時代への対応等、経済的自立を促進する教育が強調されている。今回のGPEのグラント事業は、この中期開発計画に位置づく、インクルーシブ教育と学校給食、ハイブリッド型学習の3点を支援する。モンゴルでは、SCJやJICA、 KOICAといった機関が、すでに同分野での支援の継続を表明・計画している。今回は、そこにマルチプライヤー(ドナー支援3米ドルに対し、GPEが1米ドルを支援する、ドナー支援とGPE資金をマッチングする仕組み)を用いて、GPEから追加の資金動員を行うことで、既存の支援内容との相乗効果が発揮されることが期待できる。 SCJは、 これまで日本政府・外務省の「日本NGO連携無償資金協力(通称N連スキーム)」を活用して、モンゴルでインクルーシブ教育の支援事業を過去数年間実施した。本GPEグラントでは、N連スキームで紹介したインクルーシブ教育の技術的なインプットがそのまま活用でき、これまで培ってきた専門的なノウハウや専門性を活かしていける事業構成になっている。
GAの資格取得やGPEのグラント事業の実施に向けて準備していることを教えてください
豊田光明氏 :GAの資格を取得するためにGPEがさまざまなガイドラインを準備しているので、SCJとしては、それらをもとにGAとして求められる役割を理解し、要件の最低条件を確実に満たせる組織体制の維持強化を図っていきたい。マルチプライヤー事業をSCAと共同で実施することで、GAの役割を学び、 SCJとしても将来的にGAの役割を取得できるように、しっかりと対応していきたい。
さらに、GPEのグラント事業をモンゴルで実施するために、CAを務めている在モンゴル日本国大使館、その他の主要機関であるJICAやKOICAと協調しながら、教育省と事業の進め方に関する活動計画の策定や、事業実施に向けた契約書類の準備を進めていきたい。コンポーネントごとに運営委員会を設定する予定であり、事業実施体制の構築作業をしっかりと行っていく。SCJ内部では、日本、モンゴル、オーストラリアで、内部統制の仕組みをしっかりと構築した上で、GAとしての責任をしっかりと果たせるように準備を進めている。